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映画『エルヴィス』感想:エルヴィスの当時のパフォーマンスの熱気や現象の凄さを理解する上では最良の一本

映画レビュー

ロックンロールを世の中に広め、ソロアーティスト歴代No.1の売り上げ記録を持つ、伝説のシンガー、エルヴィス・プレスリーの伝記映画、バズ・ラーマン監督オースティン・バトラー主演『エルヴィス』

音楽に目覚めた幼少時代からラスベガスでの晩年までの波乱万丈を描き切った2時間半の大ボリュームの一本です。

早速公開初日に見てきましたので早速感想を書いていきたいと思います。

エルヴィスを理解する、または入門としては最適なのでは?

エルヴィス・プレスリーの凄さって今日ではいまいちわかりにくくなっているんじゃないかと思うんですよね。

音楽性も今聴いてそのすごさがわかりやすいかというと、やはり古さは感じてしまいますし、当時衝撃的だったとか革命的だったとか言われてもあんまりピンとこないかと思います。

今日音楽はアルバム単位で評価されることが多いですけど、彼の全盛期の時はまだアルバムっていうフォーマットが曲の寄せ集めにしか過ぎなかったので、アルバムを素晴らしいものに仕上げようとかいう意識もレコード会社はもちろん当の本人にもありませんでした。ですので、この名盤をとりあえず聴けばよいとかもなく、評価しにくい側面もあります。

当時の映像を見ようにもやはり古さは感じてしまうし、第一どれを見たらいいのかもわかりません。

見ごたえ十分のライブシーン

このシーンはマジで最高なので劇場で見てください。

ところがこの映画では、当時の彼のステージングの凄さが十二分に伝わってくる素晴らしい演出になっており、エルヴィスがいかに全米を熱狂させていたかも時系列でわかるようになっているので、音源や断片的な映像を見るよりも、はるかにエルヴィスの入門や理解の手助けになるかと思います。

女の子たちがいかに彼に魅了されていたかが描かれていて、当時の映像とか見ても決してオーバーな演出じゃないんですよね。ものすごい人気があったわけです。

そして何よりも、ステージで動き回るエルヴィスが音楽そのものにとても魅了されているというのがよくわかって、その点も好感が持てました。

また主演のオースティン・バトラー演じるエルヴィスがとにかく恰好良いんですよね。本人よりもかっこいいです(笑)。

映画館を出るころにはすっかりエルヴィスの真似したくなっていました。

ブラックミュージックからの影響

エルヴィスが当時のブラックミュージック(ゴスペルやR&B)カントリーとを組み合わせて、ポピュラーミュージックに革命を起こした、というのは知識ではわかっているものの、いまいちピンと来ていなかったのですが、本作はその部分も非常に丁寧に描かれていて好感が持てました。

黒人のブルースシンガーゴスペルを歌う宣教師へのあこがれなどが、さらっと紹介されるのではなく、ところどころに何度もキチンと描かれているんですよね。

実はエルヴィスは人種差別をしていたみたいな誤解があって、それは本作でも描かれてますが、公民権運動に対して積極的にステイトメントを公表していかなかったのと、黒人文化を搾取していた象徴としてしばしばブラックコミュニティーから批判されていたからです。

Public Enemyの代表曲Fight the Power。2:35からElvisが批判されている。のちにこのライムを書いたChuck DもElvisが人種差別主義者ではないことは理解していると認めているが、象徴として攻撃せざるを得なかったとコメントしている。

とくに前半の一番のハイライトであるデビューステージの場面で、ステージに向かう前のエルヴィスが、黒人音楽の持つダイナミズムをこれから自分のステージにも持ち込もうと、昔の強烈な音楽体験と自分をシンクロさせる場面なんかは凄くて、必見なんですけど、ゴスペルとブルースの影響がいかに彼にとって大きかったか、非常にわかりやすく描かれていて、最高でした。

またキャリアとしては、ぱっとしないとみなされているラスベガス時代のエルヴィスのパフォーマンスも実はかなりすごかったというのが、きちんと説得力のある形で示されていて良かったです。

映画としてはどうなのか?

ここからは若干のネタバレを含みますので、ネタバレが嫌なかたはこのセクションは飛ばして次のセクションに進んでください。

さて、この映画はトム・ハンクス演じるエルヴィスを見出したマネージャー、トム・パーカー大佐の回想という形で進んで行きます。

このトム・パーカー、ビジネス的な手腕は確かだったのかもしれませんがなかなか問題ある人で、エルヴィスの進む道を限定してきたり、取り分50%でかなり搾取していたりするんですけど、結局最後までパートナーとしてやっていったんですね。

この映画ではエルヴィスと彼の仲にはある種の依存関係もあったのではと示唆しているのもなかなか印象的でした。

最終的にはエルヴィスは海外での興行という夢をあきらめて、アメリカ国内のみを巡業し、ラスベガスのショウを中心に活動していくのですが、まあ史実とは言え彼の私生活が段々とボロボロになっていくのが切なかったですね。

ただ、そういう場面でもちゃんとエルヴィスをかっこよく見せていて、エルヴィスのその時の特徴的な服装を再現しつつ現代的なルックに仕立て上げているのは、バズ・ラーマンっぽいなと思いました。

『華麗なるギャツビー』でも1920年代のアメリカ文化を、現代的にクールに派手に魅せるのに成功していましたし、そういう派手さは『ロミオ♰ジュリエット』『ムーラン・ルージュ』の頃から既に得意としていたところではありますからね。

ドルビー・アトモスで見てきました。

今回は音楽映画ということで音がいいと噂の初のドルビー・アトモスで見てきました。

通常の映画館ですと、前方についているスピーカーからのみ音が出ますが、ドルビー・アトモスだと劇場の様々な場所にスピーカーが付いており、音が後ろから聴こえてきたりと、非常に臨場感の高い音響を楽しめるのが売りになっています。

うーん、正直あまり違いが判らなかったです。音楽はもちろん十分感動的でしたが、普通のバージョンと比べてないので何とも言えないですけど、それほど凄い違いがあるかというとそうでもない気がしました。

というのも、我々は観客と同じ立場でエルヴィスのパフォーマンスを見る場面が多いので、音が後ろから聴こえてきて……みたいな演出のシーンが殆どないため、意外にドルビー・アトモスの性質が活かされなかったのかなと思います。

そういう意味ではむしろホラー映画とかのほうが相性がいいんじゃないでしょうか。

次回はまた違う映画をドルビー・アトモスで見てみたいですね。

点数をつけるとすると……

10点満点で7.8点ですかね。

やはりキャリアの最初の方にピークが来てしまったので、見せ場や感動場面が前半に偏っている印象です。

伝記映画なので、ある程度事実に沿っている必要があるため、これは仕方ないと思います。

前述したとおり、エルヴィスのパフォーマンスや現象としての凄さを体感する、彼の軌跡をたどるには恰好の映画だと思いますし、音の面でも劇場で見る価値はあると思います。

エルヴィス・プレスリーに少しでも興味がある音楽ファンでしたらかなりおすすめです!

最後に映画で再現された演奏の元の映像を載せておきます。

The Ed Sullivan Show

’68 Comeback Special

Rushmore Civic Center in Rapid City, South Dakota, on June 21, 1977

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